映画『ある男』名言でラストシーンを考察|ネタバレあり

映画・ドラマ

 映画『ある男』は加害者家族や在日朝鮮人など、自身の境遇に向けられた差別や偏見による生きづらさを抱える人々を描いたドラマです。

2022年の日本アカデミー賞では最優秀作品賞含む8部門を受賞しました。

この記事では、映画『ある男』の衝撃のラストシーンについて、映画内の名言を基に考察します。

ネタバレ内容を多く含んでいますので、まだ観ていない方はAmazonプライム等の動画配信サービスでご覧になられてからお読みいただければ幸いです。

映画『ある男』名言4選

 前半の理枝の物語も捨てがたいですが、今回は弁護士の木戸(妻夫木聡)に焦点をあてた名言を4つ厳選しました。

それでは一つずつみていきましょう。

先生は在日っぽくない在日ですね。それはつまり在日ってことなんですよ。(小三浦)

 柄本明が演じる、戸籍交換のブローカー小見浦のセリフです。

本物の谷口大佑を見つけるために刑務所に訪れた木戸に対し、突きつけるように語ります。

 

小見浦はあからさまに在日朝鮮人を差別する発言を繰り返します。

木戸は仕事を全うすべく冷静に対処しようとしますが、我慢し切れずに激高する場面もありました。

 

在日っぽくないからこそ在日なのだという小見浦の言葉は、在日3世のルーツに囚われた木戸の苦しみを見抜く、核心を突く一言でした。

戸籍ブローカーとしての経験から、小見浦は自分の境遇に苦しむ人物を見分ける能力に長けているのかもしれません。

 

数シーンしか登場しない小見浦ですが、柄本明の演技には圧倒的な存在感がありました。

感情が読み取りづらい表情から繰り出される台詞に重みがあり、この映画の見どころの一つとなっています。

 

気が紛れるんだよ、何故か。他人の人生を追いかけていると。(木戸)

 他人の人生を追いかけていると気が紛れる、というのは木戸の本音であり、映画のラストに繋がる重要な発言です。

 

木戸が弁護士を選んだのは、在日として差別されづらい職業だったからではないでしょうか。

弁護士になってからは社会的弱者を助ける人権派として活躍し、プライベートでは良い家柄の女性と結婚して温かい家庭を築きました。

一見、安泰な人生を送っているようにみえますが、木戸自身は他人の人生で気を紛らせたくなる程の苦しみを抱えています。

 

 木戸が抱く苦しみに、妻の香織は無関心です。

「そういうの家庭に持ち込まないでほしいな。」「(他人の人生を追いかけることに対し)悪趣味ね。私のせい?私から逃げたいの?」などと返します。

妻との気持ちのすれ違いが如実に表れているシーンでもあります。

 

どんな境遇でもいいから、今の自分を捨てて新しい自分になりたい。(木戸)

 戸籍交換をした二人を侮辱する谷口大佑の兄に対し、木戸は怒りを押し殺しながら述べます。

加害者家族であるX・原誠(窪田正孝)と、家庭に居場所がなかった本物の谷口大佑(仲野太賀)。

木戸は二人の心境を心から理解でき、その苦しみを自分のことのように感じたのでしょう。

 

本当のことを知る必要はなかったのかもしれないって思えてきました。(理枝)

 調査報告書を持参した木戸に対し、「こうやって分かってみるとですけど…」と語ります。

さまざまな境遇に苦しむ人々に光が射す、この映画の一つの答えが込められた台詞です。

 

夫(X・原誠)が身元を偽っていたと分かった時、理枝は「私は一体誰の人生と一緒に生きてたんでしょうね。」とこぼしました。

しかし、Xが加害者家族としての苦しみを抱えていたことを知り、長男が心から父親を慕っていたことを改めて気づく中で、次第に過去はさほど重要ではないと思えるようになったのでしょう。

Xがどこの誰であったとしても、一緒に過ごした時間ははっきりとした事実だ、と理枝は力強く述べます。

自身のルーツに苦しむ木戸の心にも温かく響いたのではないでしょうか。

 

映画『ある男』ラストシーン考察

 谷口大佑の身元調査が終わり、木戸が家族との団らんを楽しんでいる時、スマホの通知によって妻の浮気を知ることとなります。

 

ラストのバーのシーンでは、木戸がたまたま居合わせた初対面の客に自分の身の上話をしますが、それは谷口大佑としての経歴でした。

客に名前を尋ねられ、木戸が「僕は…」と名乗ろうとするところで映画の幕が降ります。

木戸は一体どの名前を名乗ったのでしょうか。

 

ラストシーンからは、木戸が谷口と戸籍交換し、違う人生を生きているとも考えられます。

確かに木戸は今の人生を捨てたくなるほど在日3世の呪縛に苦しめられてきました。

同じように境遇に苦しむXと谷口大佑にシンパシーを感じていたのは既にみてきた通りです。

とはいえ、木戸が自分の人生を捨てて他人として生きることを選んだとは、私には考えられません。

「今の人生は手放しなくないですね…」と木戸が語った言葉は、苦しいながらも愛しい木戸自身の人生を指していたのではないでしょうか。

 

 差別意識や偏見をなくすことは、人間社会の最も難しい課題の一つです。

自分自身も無意識のうちに差別するような考えや行動をとっているかも、、、という怖さもあります。

そんな無知な私にできることは、さまざまな境遇の人々に共感できる教養と想像力をもつことではないかと思いました。

映画『ある男』は、さまざまな境遇を抱えた人々の気持ちを考えるきっかけを与えてくれた、素晴らしいドラマ作品でした。

コメント

  1. Bothok Laron より:

    You’re so awesome! I don’t believe I have read a single thing like that before. So great to find someone with some original thoughts on this topic. Really.. thank you for starting this up. This website is something that is needed on the internet, someone with a little originality!

タイトルとURLをコピーしました